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健診で「肝臓の数値が高い」と言われたら?お酒を飲まない人も要注意な理由

2026.07.19

 

「先生、私、お酒は付き合いでたまに嗜む程度なんです。それなのに、健康診断で肝臓の数値が高いと書かれてしまって……何かの間違いでしょうか?」

診察室で、健診結果の用紙を不安そうに見つめながら、そう口にされる患者さんは少なくありません。

健康診断のシーズンになると、このようなご相談が急増します。

「肝臓の数値が高い」と言われると、多くの方は「お酒の飲みすぎ」「アルコール依存の一歩手前」といったイメージを持たれるようです。

そのため、お酒をほとんど飲まない方ほど、「自分には関係ないはずなのに、なぜ?」と戸惑い、中には「きっと一時的なものだから様子を見よう」とそのまま放置してしまう方もいらっしゃいます。

しかし、ここに大きな落とし穴があります。

実はお酒を飲まない方であっても、肝臓の数値が高くなるケースは非常に多いのです。

今回は、消化器内科・肝臓の専門医の視点から、健診で指摘される肝臓の数値(AST、ALT、γ-GTP)が意味すること、そして放置するリスクと、今日から始められる具体的な3つのステップについて、分かりやすく解説します。


1. お酒を飲まないのに数値が上がる?「沈黙の臓器」肝臓が発する最初のSOS

まず知っていただきたいのは、肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれている点です。

非常に我慢強い臓器で、全体の2/3がダメージを受けて使い物にならなくなるまで、痛みやだるさといった自覚症状をほとんど出しません。

つまり、「どこも痛くないし、体調も良いから大丈夫」という自己判断は、肝臓に関しては全く通用しないのです。

では、健康診断でよく目にする「AST」「ALT」「γ-GTP」という数値は、一体何を意味しているのでしょうか。

① ASTとALTは「肝細胞の破壊度」を示すダメージメーター

AST(GOT)とALT(GPT)は、どちらも肝臓の細胞の中に多く含まれている「酵素」です。

肝臓が健康なときは、これらの酵素は細胞の中に閉じ込められて仕事をしています。

しかし、何らかの原因で肝臓の細胞が壊れると、中身が血液中に漏れ出してしまいます。

つまり、血液検査でASTやALTの数値が高いということは、「今まさに肝臓の細胞が破壊され、壊れて漏れ出している」というリアルタイムのダメージメーターなのです。

ちなみに、ASTは心臓の筋肉や赤血球などにも含まれますが、ALTはほとんどが肝臓にしか存在しません。そのため、ALTの数値が高いときほど、肝臓そのものに直接的なダメージが加わっている可能性が高くなります。

ここで、特に注目していただきたいのが「ALT」の数値です。

一般的に健康診断の判定基準では「ALT 40以下(あるいは45以下)が正常」とされていることが多いのですが、実は日本肝臓学会は「奈良宣言2023」という声明の中で、「ALT 30」を超えたら肝臓専門医による精査を推奨する、という厳しい新基準を打ち出しました。

「ALT 35だからギリギリ正常値」「38だから様子を見よう」と考えるのではなく、30を超えた段階で、すでに肝臓は小さな悲鳴を上げ始めているという認識を持つことが、将来の重症化を防ぐために非常に大切です。

② γ-GTPは「解毒と胆道の流れ」のバロメーター

もう一つ、お酒と関連性の深い数値として知られるのがγ-GTP(ガンマジーティーピー)です。

これはタンパク質を分解する酵素で、肝臓や胆管(胆汁の通り道)の細胞に多く存在しています。

γ-GTPは解毒作用に関わっているため、アルコールを頻繁に飲む人ほど、その解毒のために数値が上昇しやすいのは事実です。

しかし、お酒を飲まない人であっても、油っこい食事の摂りすぎ、肥満、あるいはストレスや一部の内服薬の影響によって、γ-GTPは簡単に跳ね上がります。

「お酒を飲まないからγ-GTPは関係ない」というわけでは決してないのです。

③ 急増する「お酒を飲まない脂肪肝(MASLD)」

お酒を飲まないのに肝臓の数値が高い原因として、現代において最も頻度が高いのが「脂肪肝(しぼうかん)」です。

以前は「非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD/NASH)」と呼ばれていましたが、最近の国際的な分類では「MASLD(代謝異常関連脂肪性肝疾患)」などと呼ばれるようになっています。

これは、簡単に言うと「肝臓の中に脂肪(中性脂肪)が過剰に蓄積し、フォアグラのようになってしまっている状態」です。

「たかが脂肪でしょ」と侮ってはいけません。

肝臓に脂肪が溜まり、慢性的な炎症が続くと、一部の方は「肝硬変(かんこうへん)」という肝臓がカチカチに硬くなる病気に進行し、最悪の場合は「肝がん」を発症するリスクがあります。

近年では、この脂肪肝(MASH)による肝臓の「繊維化(硬くなっていく度合い)」を評価するため、当院でも行っている超音波(エコー)を使った「剪断波エラストグラフィ(エラストグラフィー)」という非侵襲的な検査が普及してきました。これにより、肝臓に針を刺すような痛い検査をしなくても、お腹にエコーを当てるだけで「どれくらい肝臓が硬くなり始めているか(F2やF3といった進行ステージ)」を痛みを伴わずに正確に判定できるようになっています。

さらに最近では、この繊維化の進行(F2-F3ステージ)を標的とした新たな治療アプローチもトピックスとして注目を集めており、脂肪肝は「ただ痩せるのを待つ」だけの時代から「精密な評価に基づき、能動的に治療介入する」時代へと進化しています。

自覚症状がないからこそ、健診で赤い矢印がついた最初の段階で、正しく対処することが極めて重要なのです。


2. 「とりあえず様子見」を卒業する。専門医が勧める3つのステップ

健診結果で「要経過観察」や「要精密検査」と書かれていたら、まずは以下の3つのアクションを起こしてみることをお勧めします。

どれも難しいことではありません。一歩ずつ進めてみましょう。

【ステップ1】消化器内科・肝臓専門医を受診し、「腹部エコー検査」を受ける

「血液検査で引っかかったから、もう一度血液検査をしよう」と考える方がいらっしゃいますが、血液検査だけでは「肝臓の数値が高い原因」を特定することはできません。

肝臓の数値が上がる原因には、脂肪肝だけでなく、B型・C型などの「ウイルス性肝炎」、自己免疫性肝炎や原発性胆汁性胆管炎などの「自己免疫性肝疾患」など、多岐にわたります。まずは血液検査でこれらの病気の可能性を調べる必要があります。

例えば「C型肝炎」は、現在では優れた飲み薬(DAA製剤)が登場したことで、わずか8〜12週間の内服で100%近くウイルスを排除して治癒できるようになりました。しかし、ここで専門医として強調したいのは、「ウイルスが消えて肝炎が治った後でも、数年〜10年以上経ってからがん(肝がん)が発症することがある」という点です。そのため、ウイルス治療が終わった後であっても、定期的な専門外来でのフォロー(エコーや血液検査)を続けることが命を守るために不可欠です。

その次に行うのが、腹部エコー(超音波)検査です。

エコー検査は、お腹にゼリーを塗り、超音波を当てるだけの簡単な検査です。

痛みは全くありませんし、放射線の被ばくの心配もありません。わずか10〜15分ほどで終わります。

このエコー検査を行うことで、肝臓が脂肪で白くピカピカに光っているか(脂肪肝の有無)、肝臓の形態に硬さが出ていないか、他の臓器(胆のう、膵臓、腎臓、脾臓)に異常がないかを、評価することができます。

まずは、お近くの「消化器内科」や「肝臓専門医」を標榜しているクリニックを受診し、「健診で引っかかったのでエコーをしてほしい」と伝えてみてください。

【ステップ2】食事における「糖質と脂質」の引き算を始める

肝臓に溜まった脂肪を取り除くためには、やはり食生活の見直しが不可欠です。

ただし、ここで大切なのは「極端な食事制限をしない」ということです。

例えば、「今日から炭水化物は一切食べない!」「サラダとササミしか口にしない!」といった極端なダイエットは、長続きしないばかりか、体が飢餓状態と錯覚して逆に肝臓に脂肪を溜め込みやすくなる「飢餓脂肪肝」を引き起こす原因にもなります。

自分がお勧めしているのは、「少しずつの引き算」です。

特に意識していただきたいのが、以下の3つの引き算です。

  1.  1. 「果糖(かとう)」を引き算する: ジュース、エナジードリンク、缶コーヒー、果物などに多く含まれる果糖は、小腸で吸収された後、ダイレクトに肝臓へ運ばれて中性脂肪へと合成されます。ビールを控えるよりも、毎日の甘い飲み物を「お茶や水」に変える方が、肝臓への負担は劇的に減ります。
  2.  2. 主食を「一口分」引き算する: 毎食のご飯(白米)やパン、麺類の量を、いつもより「一口分(約10〜20%)」だけ減らしてみてください。この小さな引き算の積み重ねが、肝臓への脂肪蓄積を緩やかに抑えてくれます。
  3.  3. 「遅い時間の食事」を引き算する: 夜遅くに摂った食事は、消費されずにそのまま脂肪として体に蓄積されやすくなります。夕食はできるだけ就寝 of 3時間前までに終えるよう意識してみましょう。

無理のない範囲で日常に「引き算」を取り入れるのが、リバウンドを防ぐ最大のコツです。

【ステップ3】「有酸素運動」と「軽い筋トレ」を組み合わせる

肝臓に蓄積した脂肪を効率よく燃焼させるためには、筋肉という「エネルギー消費工場」を稼働させる必要があります。

運動というと、ジムに通ってハードなトレーニングをしなければならないと思われがちですが、そこまで気負う必要はありません。

効果的なのは、「有酸素運動」と「軽い筋トレ」のハイブリッドです。

  •   有酸素運動: 1日15〜20分程度の軽い散歩(ウォーキング)で十分です。息が軽く弾む程度の早歩きを取り入れると、さらに効果が高まります。
  •   軽い筋トレ: お勧めは「スクワット」です。太ももやお尻など、体の中でも特に大きな筋肉を鍛えることで、基礎代謝が上がり、効率よく肝臓の脂肪が消費されます。
    歯磨きをしている間や、テレビのCM中に10回×3セット行うだけでも、習慣化できれば十分な効果が期待できます。

これらを日常のルーティンに自然に組み込むことで、無理なく継続することができます。


3. 数値を下げるゲームではない。肝臓の警告を「生活の調律」に変える

最後に、専門医として皆さんに最もお伝えしたいメッセージがあります。

それは、「健康診断の肝臓の数値を下げること自体を目的にしないでほしい」ということです。

検査の直前だけ必死になってお酒を控えたり、厳しい食事制限をして数値を正常値に戻し、「よし、今度の健診はクリアしたぞ」と胸を撫で下ろす。そして健診が終われば、また元の食生活や飲酒習慣に戻ってしまう。

これでは、自分の体と「数値ハックのゲーム」をしているようなものです。

一時的に数値を誤魔化すことができても、肝臓の中のダメージや、蓄積された脂肪がリセットされたわけではありません。

健康診断で肝臓の数値が高いと指摘されたということは、あなたの体が「今の生活バランスのままだと、将来困ったことになるかもしれないよ」と身を以て教えてくれている、とても貴重なアラート(警告灯)なのです。

数値が高いとわかったとき、どうか「ダメな自分」を責めたり、極端な健康法に走ったりしないでください。

それは、これまでの生活を少しだけ見直し、自分自身の体と対話をするための「良いきっかけ」が得られたということです。

医療やクリニックは、あなたを叱ったり、厳しいルールで縛り付けたりする場所ではありません。

あなたが、これからも美味しいものを美味しく食べ、大切な家族や友人と長く元気に過ごすために、今の生活をどうやって心地よく整えていくか。それを一緒に考え、伴走するための場所です。

まずは怖がらずに、ご自身の肝臓の状態を正しく知ることから始めてみませんか。


いとせクリニックでのサポート

兵庫県尼崎市武庫之荘の「いとせクリニック」では、健診での肝機能異常を指摘された患者さんへの専門外来を行っています。

当院では、患者さんのお話を丁寧に伺いながら、血液検査と最新の超音波診断装置を用いた「腹部エコー検査」で、肝臓の数字が高い原因を調べるとともに肝臓の脂肪の溜まり具合や硬さを評価いたします。

お薬の処方だけでなく、患者さんのライフスタイルに合わせた無理のない食事指導や生活習慣のアドバイスも、患者さんと同じ目線に立ってご提案しております。

「要精密検査と書かれて不安だけど、どこを受診していいかわからない」
「お酒は飲まないのに数値が高くて悩んでいる」

そのようなときは、決して一人で悩まず、どうぞお気軽に当院までご相談ください。

あなたの健康な毎日を、スタッフ一同、温かくサポートいたします。

 

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