近年、糖尿病の治療だけでなく、肥満症や脂肪肝の治療でもマンジャロやオゼンピックといった注射薬が使われるようになりました。
体重を減らしたり、血糖値を改善したりする効果が高く、実際に使っている方も多いと思います。
一方で、消化器内科や胃カメラの現場では、少し気になることが増えています。
それは、検査前の絶食をきちんと守っているのに、胃カメラで胃の中を見ると、前日の夕食が残っていることがあるということです。場合によっては、数日前に食べたものが残っていることもあります。
「夜9時以降は何も食べていません」と、きちんと指示を守っているのに、なぜ胃の中に食べ物が残ってしまうのでしょうか。
その理由の一つが、マンジャロなどの薬にある、胃の動きをゆっくりにする作用です。これを胃排泄遅延といいます。
今回は、マンジャロなどの薬が胃にどのような影響を与えるのか、そして胃カメラを受けるときに気をつけていただきたいことについて、できるだけ分かりやすくお話しします。
1. なぜ胃の中に食べ物が残ってしまうのか
マンジャロなどを使っていると、「お腹が空きにくくなった」「少し食べただけでお腹いっぱいになる」と感じることがあります。
これは、薬によって胃の動きがゆっくりになることと関係しています。
通常、口から入った食べ物は胃の動きによって消化され、2〜4時間ほどかけて十二指腸や小腸へ送り出されます。
ところが、マンジャロなどの薬には、胃から食べ物が送り出される速度をゆっくりにする作用があります。
食べ物が胃の中に長くとどまることで、食後の血糖値が急激に上がるのを抑えたり、満腹感が続いて食欲が抑えられたりします。
これは薬の効果につながる大切な作用です。
その一方で、胃カメラなどの検査を受けるときには注意が必要になります。
検査前日の夜から何も食べていなくても、胃の動きがゆっくりになっていると、胃の中に食べ物が残っていることがあるからです。
2. 胃に食べ物が残っていると何が危険なのか?
「胃の中に食べ物が残っていても、胃カメラで見れば分かるのでは」と思われるかもしれません。
しかし、胃の中に食べ物が残っていると、検査に支障が出ることがあります。
まず、胃の粘膜を十分に見ることができなくなります。
胃カメラでは、胃がんや胃潰瘍、ポリープなどがないか、胃の粘膜を隅々まで観察します。
ところが、食べ物が胃の粘膜に付着していると、その下にある部分を見ることができません。
せっかく絶食して胃カメラを受けても、十分に観察できず、日を改めてもう一度検査を受けていただくことがあります。
もう一つ注意したいのが、食べ物が気管や肺に入ってしまう誤嚥です。
胃の中に食べ物や胃液が残っていると、検査中に胃の内容物が食道へ逆流し、それが誤って気管や肺に入ってしまうことがあります。
特に、鎮静剤を使って眠った状態で胃カメラを受ける場合には注意が必要です。
眠っている間は、気管に異物が入らないように守る反射が弱くなります。そのため、逆流した胃の内容物が肺に入り、重い肺炎や窒息につながる危険があります。
3. 胃カメラや手術を受ける前に知っておいていただきたいこと
マンジャロを使っている方が胃カメラなどの検査を受けるとき、まずお願いしたいのは、薬を使っていることを事前に伝えていただくことです。
検査当日になってからではなく、予約するときや事前の問診の段階で、マンジャロや他のGLP-1系の薬を使っていることを医師やスタッフに伝えてください。
お薬手帳を見せていただくか、使っている注射や薬の名前を正確に伝えていただければ大丈夫です。
もう一つ大切なのが、薬を休むかどうかについてです。
胃カメラや鎮静を使った手術などを受ける前には、胃の中を空にするために、一定期間薬を休むことが検討される場合があります。
ただし、ご自身の判断でマンジャロを中止するのは避けてください。
糖尿病の治療で使っている場合、急に中断すると血糖値が上がったり、体調を崩したりする可能性があります。
胃カメラを受けることが決まったら、まずマンジャロを処方している主治医に、胃カメラを受ける予定があることを伝えてください。
そのうえで、検査前にいつから薬を休むのか、検査後いつから再開するのかを、主治医と相談して決めるようにしてください。
4. マンジャロを使っている方が胃カメラを受けるときに
マンジャロは、糖尿病の治療や体重の管理に役立つ薬です。
今回お伝えしたいのは、危険な薬だから使ってはいけないということではありません。
マンジャロには、食べたものが胃の中に長くとどまりやすくなるという特徴があります。
そのことを知っておき、胃カメラや手術を受けるときには、マンジャロを使っていることを医療者に伝えてください。
「来月、会社の健診で胃カメラを受ける」
「最近お腹の調子が悪く、胃カメラを受けようと思っている」
このような場合、マンジャロを使っていることを予約時や事前の診察で伝えていただければ、検査を安全に受けるための準備につなげることができます。
使用している薬について医療者と情報を共有することが、安全に胃カメラを受けるための大切な一歩になります。
